「親から子供へ不動産を渡したい」と考えた場合、その方法は「相続」「贈与」「売却」の3つがあります。
このうち、最もお金がかからないのは「相続」ですが、相続は名義人である被相続人が死亡しなければ発生しません。
また、相続の場合、相続争いが起きたり、相続人が増えてしまう場合など、なにかとデメリットも多く、生前に不動産を渡した方がよいケースが多々あります。
そこで今回は、不動産の譲渡方法の中でも「贈与」と「売却」に絞り、それぞれを比較解説していきたいと思います。
親から子供に家を渡したい!売却と贈与どちらがおすすめ?
親が生きているうちに不動産の名義を子供に変更する方法には、「売却」と「贈与」の2種類があります。
売却は、金銭授受による名義変更となるのに対して、贈与は、対価を受け取らずに名義を子供に変更することです。
家は「売却」のほうが税負担は軽い
たとえ相手が自分の子供でも、家の名義変更をする場合は、贈与より売却の方がおすすめです。
なぜなら、贈与するよりも売却するほうが税金を安く抑えられるからです。
不動産を子供に売却した場合、生じた売却益に対して、『譲渡所得税』を親が支払います。※この税金は親族間の取引でなくても課税されます。
一方、家を贈与した場合は、『贈与税』という税金を子供が支払うことになります。
譲渡所得税は売却代金に応じて課税額が決まるのに対して、贈与税は評価額によって決まります。
譲渡所得税は次の計算式で算出することができます。
取得費は、(不動産の購入代金+購入費用の合計額)から減価償却費を差し引いた値と売却代金の5%のうち、大きい額のほうが採用されます。
また、税率は不動産の所有期間が5年以内か5年超かによって次のように定められています。
短期譲渡所得(5年以内) | 長期譲渡所得(5年超) | |
---|---|---|
所得税 | 30% | 15% |
住民税 | 15% | 5% |
なお、譲渡所得税に関して詳しく知りたい方は「家を売ると所得税がかかる?計算方法や控除を活用した節税方法を解説」も参考にしてみてください。
また、贈与税に関しては、贈与した不動産の相続税評価額が110万円を超えた場合に発生し、税率は評価額に対して次のように定められています。
相続税評価額 | 贈与税の税率 |
---|---|
200万円以下 | 10% |
200万円超300万円以下 | 15% |
300万円超400万円以下 | 20% |
400万円超600万円以下 | 30% |
600万円超1,000万円以下 | 40% |
1,000万円超1,500万円以下 | 45% |
1,500万円超3,000万円以下 | 50% |
3,000万円超 | 55% |
不動産を贈与する場合、最大55%の税金が課税されるので、半分以上を税金で納めることになりかねません。
贈与税に関しては、「相続時精算課税制度」という特例控除があり、これを使うと最大2,500万円まで贈与税が無料になります。
ただ、名前の通り、相続時に精算されるので、税金が減額されるということではありません。
なお、贈与税については「【家を売る際の贈与税】仕組みや控除・特例を活用した対策方法を解説」で詳しく解説しています。
子供に家を売る時の注意点
子供に家を贈与した場合、多額の税金がかかる可能性があるため、売却するほうがメリットがある場合が多いです。
また、売買契約は自由度が高い契約なので、親子間である程度ルールを決めることもできます。
ただし、「何をしてもOK」という訳ではありません。
ここでは、子供に家を売る際に注意すべきポイントをご紹介します。
- 子供に家を売る際は適正価格を定めるのが難しい
- 不動産会社がなかなか仲介してくれない
- 住宅ローン審査に通りにくい
子供に家を売る際は適正価格を定めるのが難しい
家を子供に売ることは「親族間取引」と言われ、税務署が厳しくチェックしています。
なぜ税務署が厳しくチェックしているかというと、親族間の取引は価格の操作がしやすく、それだけ税金をごまかしやすいからです。
例えば、親から子供に家を売る際、売却相場が4,000万円くらいの家を子供の言い値で1,000万円くらいで売るということも親族間取引の場合は起こり得ます。
こうなると、相続対策として、生前に子供に家を売る人が続出してしまいますよね。
実は、贈与税ができたのは、こういった相続税逃れが多発したためで、相続税をしっかりと支払ってもらうことが目的なのです。
ですから、先ほどの例のように、極端な安値で取引すると「売却」ではなく「贈与」とみなされ、贈与税が課せられるので注意しましょう。
たとえ、子供に売却する場合でも、適正価格で取引するよう心がけましょう。
不動産会社がなかなか仲介してくれない
子供に家を売る親族間取引には、不動産会社が仲介を渋るというケースがたまにあります。
というのも、不動産会社の収入源である仲介手数料は不動産の売却金額に応じて決まるからです。
親が子供に家を売る場合、売却額が高値になりにくいので、それだけ、不動産会社にとっては薄利になり、仲介をするメリットが少ないのです。
住宅ローン審査に通りにくい
親族間取引は不動産売買では特殊なケースになるので、金融機関から住宅ローンの融資を受けにくいというデメリットもあります。
金融機関は、住宅ローンの審査をする際に、「融資したお金を回収できるかどうか」を慎重に調査します。
親族間取引の場合、いずれは子供に相続される不動産をわざわざ売買と言う形で譲渡するため、まず、その点に金融機関は疑問を抱くのです。
親が兄弟のうち1人を特別に可愛がっていて、その子供に不動産の権利を全て引き渡すために、他の兄弟に黙って譲渡した場合、それに気づいた他の相続人が、訴訟を起こす可能性もあります。
そうなると、住宅ローンの返済どころではなくなる可能性もあり、そういったリスクがある場合、金融機関が住宅ローンの審査に落とす場合もあるのです。
親が認知症…子供が家を売りたい場合はどうする?
最近、「親が認知症のため施設に入居するので、親名義の家を売って費用に充てたい」という子供からの相談が増えています。
不動産の名義人である親が認知症などで十分な判断能力がない場合、子供は親の家を売ることはできるのでしょうか?
最後に、親の意思が確認できない場合に親名義の不動産を子供が売る方法について解説します。
本人の意思が確認できない場合、子供であっても家を売ることはできない
「認知症」「知的障害」「精神障害」などが原因で、本人の判断能力がない場合に利用されるのが『成年後見制度』です。
成年後見人は、本人に代わって財産管理や介護施設入所への契約、遺産分割の協議などを行えます。
成年後見制度の申し立てができるの人物は法律で決められており、主に次のような人が該当します。
- 本人
- 配偶者
- 4親等内の親族
- 未成年後見人
- 未成年後見監督人
- 検察官
- 市区村長
また、成年後見人には、「親族」「弁護士」「司法書士」「社会福祉士」「法人」「市区町村長」がなることができます。
成年後見人の申し立ては、家庭裁判所に対して行い、記載された成年後見人候補者が適任かどうか審査されます。
成年後見人になると、後見が終了するまで、行った職務の内容を定期的にまたは随時、家庭裁判所に報告する義務があります。
成年後見人の専任から不動産売却までの流れは、下記のとおりです。
- 本人の住所地を管轄する家庭裁判所に「成年後見制度開始」の審査を申し立てる。
- 家庭裁判所から依頼された医師が本人の意思能力を評価し、診断書を作成する。
- 後見人の選定、審判の確定。
- 不動産会社と売買契約、買主を探す。
- 本人に代わり、成年後見人が買主と売買契約を結ぶ。
- 家庭裁判所の許可。
- 家庭裁判所からの許可後、売買代金の精算、所有権移転の登記が行われる。
親が認知症などの診断を受け、判断能力がないと認定されると、子供であっても親名義の家を売ることは難しくなります。
そのため、判断能力があるうちに信託を利用して、財産の管理を第三者に委託することを検討してもいいでしょう。
また、自分の判断能力が衰えた時に備えて、親本人が「任意後見受任者」を選び、公正証書を作成して、任意後見契約を結んでおくという方法もあります。
今すぐに子供に家を売る気がなくても、万が一に備えて、しかるべき手を打っておくことで、後々のトラブルを回避し、子供の負担を減らすことができるでしょう。
まとめ
生前に子供に家を譲る場合、タダ同然で譲渡してしまうと、贈与税が発生します。
贈与税の税率は最大で55%なので、税金で半分以上がもってかれることになります。
さらに、贈与税を支払うのは贈与を受けた子供のほうなので、結局、子供の負担が増えてしまいます。
そのため、子供に家を売る場合は、「適正価格で売却するのがいいのか?」「贈与税を支払ったほうが負担が少なくてすむのか?」、しっかりと計算して検討しましょう。
家を売る権利を子供に与えておくことも相続対策になる
また、認知症など、親本人の判断能力が衰えてしまうと、生前に家の売却をすることが難しくなります。
家を売れないと、資金の用意や施設への入所もできず、結果的に子供に迷惑をかけてしまうこともあるので、事前に手を売っておくことも大切でしょう。