家を相続した場合、「すでに自分の家を所有しているから相続した家を売却したい」という方も多いのではないでしょうか?
ただ、不動産の売却は人生でそう何度も経験するのものではありませんよね。
そのため、相続した家の売却を検討している人の中には、次のような疑問を抱えている人も多いはず。
- そもそも、相続した家は売却すべきなのか?
- 相続した家を売却するメリットは?
- 相続した家を売却する際の税金はどうなる?
- 相続した家を高く売却するためのコツは?
相続した家を売却する前に知っておきたい予備知識1
相続した家を売る前に、相続した家を放置した場合、どのような危険性があるのか知っておきましょう。
家や土地などを相続後に放置すると危険な理由
親が住んでいた家や所有していた土地を相続したけれど、「遠方であったり、使用目的が決まらない」という理由で放置している人も多いのではないでしょうか?
なぜなら、不動産を放置すると、知らない間に権利を失ったり、他人に損害を与えて損害賠償責任を負うケースがあるからです。
相続した実家などが勝手に他人に使用されているのを放置していると、あなたの所有権が失われ使用している他人にその土地の所有権が移ってしまうことがあります。
あなたが相続した土地の隣にAさんが無断で家を建てて、自宅の敷地としてあなたの土地を使用し続けたとします。
もし、Aさんに過失がなく、あなたの土地を自分のものと思っていた場合は10年間、あなたの土地だと知っていた場合は20年間で時効が成立し、あなたの土地の所有権がAさんに移ってしまいます。
ちなみに、時効の成立を阻止するには、『調停』や『訴訟』といった法的措置が必要になります。
自分には落ち度がないのに損害賠償請求をされる危険性がある
あなたが相続した土地の植木が強風で倒れて、人にけがをさせたとします。
この場合の責任は誰にあるのでしょう?
民法では、土地の工作物(塀や壁)等の占有者及び所有者の責任となります。
まず、土地や家などの建物を実際に利用・管理している人(占有者)が責任を負いますが、占有者に過失がない・占有者がいない場合は、所有者が責任を負わなければなりません。
ちなみに、占有者に過失がない状態とは、その損害の発生を防止するように必要な注意を所有者にしていた場合のことです。
したがって、相続した家を放置していると、知らないうちに損害賠償責任を負う危険性があるのです。
土地の境界線をめぐるトラブルにも注意
家が建っていても、更地でも、土地を長期間放置していると、『隣地との境界をめぐるトラブル』が起こる可能性も非常に高くなります。
家や土地の所有者の中には、境界標を勝手に移動したり、破棄するような人もいます。
また、境界が不明確になっているせいで、自分の土地がいつの間にか使われているといったトラブルもあります。
境界に関するトラブルも法的措置でしか解決できません。
もしトラブルになった場合は、調停や「境界確定の訴え」という訴訟を提起する必要があり、非常に面倒です。
相続した家を売却する前に知っておきたい予備知識その2
次に、家を相続した場合にトラブルになりやすい『家の遺産分割方法』や『相続税の評価』についても確認しましょう。
家の遺産分割方法と相続税の評価
不動産は現金や株のように分割するのが難しいため、遺産分割で揉めることが多いです。
相続人が2人いて、2,000万円の価値がある不動産と、2,000万円の預貯金がある場合は、どちらかが不動産を相続し、もう一方が預貯金を相続すればいいので、大きなトラブルになることは少ないでしょう。
しかし、相続人が2人いて、5,000万円の価値がある不動産と500万円の預貯金が財産の場合や相続人が3人いて、4,000万円の不動産しか相続財産がない場合はトラブルになりやすいです。
また、遺産分割方法には主に以下の3つがあります。
- 換価分割
- 代償分割
- 共有分割
■ 換価分割
換価分割とは、不動産を売ることで現金化し、それを分割する方法です。
ただし、この方法の場合、相続税以外に売却による譲渡益があると、その保有期間に応じて、長期譲渡所得税か短期譲渡所得税を支払わなければなりません。
譲渡所得税の課税対象になる課税譲渡所得金額は次の計算式で算出します。
譲渡価格は「売却代金」、取得費は「購入代金等から減価償却費相当額を差し引いた金額」、譲渡費用は「売却の経費」のことです。
なお、相続税の申告期限から3年以内に売却したのであれば、納付済みの相続税のうち、売却した資産に対応する金額を取得費に加算できます。
譲渡費用には、「仲介手数料」「測量費」「立退料」「建物解体費」などが含まれます。
後ほど詳しく説明しますが、特別控除には『居住用財産の譲渡の特例(3,000万円控除)』などがあります。
仮に、課税譲渡所得金額が発生した場合、この金額に対して譲渡所得税が課せられます。
■ 代償分割
代償分割とは、不動産の相続人のうち一人が単独で相続し、残った相続人に現金で不動産の価値と同額を支払う方法です。
この場合、代償金を支払う側の相続人には非常に重い負担がかかります。
代償金と自分の相続税は、代償金を支払う側の相続人が自らの収入ですべて賄わなければなりません。
また、金融機関のローンを組んで代償金を支払う場合もありますが、その場合、金利は住宅ローンなどよりも高くなってしまいます。
■ 共有分割
共有分割とは、不動産を共有登記する方法です。
この方法は、「近いうちに売却する or 賃貸にして賃料を分割する」などの具体的な計画がないと、問題を先送りするだけとなってしまう危険があります。
また、ただ単に固定資産税などの経費ばかりを支払うことになりかねないので、用途の見通しが立っていない場合は売るほうが懸命でしょう。
相続した家を売却することのメリット
先ほどの遺産分割方法を読んで、「相続した家は売るのが一番いい」ということは、なんとなくご理解いただけたと思います。
ここでは、相続した家を売却することのメリットについて詳しく解説します。
- 現金化することで相続財産を平等に分けやすくなる
- 相続税の納税資金に充てられる
現金化することで相続財産を平等に分けやすくなる
たしかに、代償分割でも代償金を払えば一見平等のように思われます。
ただ、家の価値は相場などによって変化します。
一方、相続時の不動産の相続税の評価は、「時価」ではなく「固定資産台帳や路線価」から算出した評価額に対して課税されます。
ですから、家を売ることで現金化し、その代金を半分ずつ相続したほうがより平等と言えるのです。
相続税の納税資金に充てられる
相続税の納付期限は、被相続人が亡くなったことを知った翌日から10ヶ月以内です。
相続財産が不動産しかなく、相続税が発生する場合、短期間の間に相続税分の現金を用意しなければなりません。
現金がなくても、相続した不動産を売った場合は、その売却金を納税に充てることができますね。
相続した家を売却する場合の税金
家や土地などの不動産を相続して売る場合には、『相続税』と場合によっては『譲渡所得税』が発生します。
ここでは、この2つの税金についての考え方や算出方法について解説します。
相続税について
相続財産があると相続税の心配をする人もいますが、実は、相続税が発生するのはごく一部の人と言ってもいいです。
なぜなら、相続税には基礎控除があり、基礎控除額は【3,000万円+相続人の数✕600万円】です。
基礎控除額を差し引いた残りの相続財産に関しては、相続税が課税されますが、税額は相続人の法定相続分と相続税の速算表に応じて計算します。
■ 法定相続分一覧
法定相続人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者と子 | 配偶者2/1、子全員で2/1 |
配偶者と直系尊属(父母、祖父母) | 配偶者2/3、直系尊属全員で1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者3/4、兄弟姉妹全員で1/4 |
■ 相続税の速算表(平成27年1月1日以後の場合)
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
譲渡所得税について
課税譲渡所得金額の算出式は次の通りでしたね。
譲渡所得税はこの式によって算出された課税譲渡所得金額に対して課税されます。
先ほども少しお話ししましたが、譲渡所得税の税率は、その土地や建物の所有期間に応じて「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に分けられます。
所有期間は、土地や建物を売った年の1月1日現在で所有期間が5年を超えている場合が「長期譲渡所得」に該当し、5年以下の場合は「短期譲渡所得」になります。
所得税 | 住民税 | |
---|---|---|
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
※復興所得税は含みません。
相続で不動産を取得した場合、おそらくほとんどの場合が長期譲渡所得に該当すると思われますが、ここで注意する必要があるのが『取得費』です。
取得費とは、当時その不動産を購入した時にかかった費用のことです。
- 土地や建物を購入した時に支払った不動産の登録免許税や不動産取得税、特別土地保有税(取得分)や印紙税。
- 購入した不動産に賃借人がおり、その賃借人に立ち退かせるために支払った費用。
- 土地の造成のために支払った費用(埋め立て、地ならし土盛りなど)。
- 土地の取得の際に支払った測量費。
- 不動産の所有権を確保するために支払った訴訟費用(遺産分割の訴訟にかかった費用は該当しません)。
- 土地建物を購入し当初から土地の利用が目的であった場合の建物の取り壊しの費用。
- 不動産を購入するために借り入れた資金の利子のうち、不動産を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子
- 既に締結済の契約を解除し、他の物件を取得した場合の契約の違約金
みなし取得費については、国税庁のホームページに分かりやすい説明がありますので、引用します。
譲渡所得の金額は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
取得費は、土地の場合、買い入れたときの購入代金や購入手数料などの合計額です。
建物の場合は、購入代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた額です。
しかし、売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古いなどのため取得費がわからない場合には、取得費の額を売った金額の5%相当額とすることができます。
また、実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合も同様です。
例えば、土地建物を3,000万円で売った場合に取得費が不明のときは、売った金額の5%相当額である150万円を取得費とすることができます。
引用:国税庁ホームページ
上記の例で考えた場合、課税譲渡所得金額は【3,000万円-150万円=2,850万円】となります。(※分かりやすくするために経費等は考慮しません。)
すると、長期譲渡所得で考えた場合でも、約570万円の譲渡所得税を納めなければならないことになります。
ですから、相続した不動産を売るなら、「売買契約書」や「領収書」などの取得費を証明できる資料を是が非でも見つけだして、当時の購入価格を証明できるようにしましょう。
相続した家を売却する時に受けられる特例
相続した家を売る際に受けられる可能性がある特例で代表的なものが、『取得費加算』と『3,000万円控除』の2つです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
取得費加算の特例
この特例では、相続の際に納税した相続税の一部で、売却した不動産に関わる部分に相当する金額分を、売却時の税金の計算上で取得費に加算することができます。
取得費加算額は次の式で求められます。
この特例を受けるには次の3つの条件を満たす必要があります。
- 相続によって財産を取得した者が売却したこと
- その財産を取得した者が相続税を支払ったこと
- 相続開始日から3年10ヶ月以内に売却したこと
3,000万円控除の特例
次の条件に該当すれば、先ほどご紹介した課税譲渡所得金額の算出式の特別控除額の部分に3,000万円を上限として含めることができます。
- 昭和56年6月31日以前に建築された家屋(区分所有建築物を除く)
- 相続開始の直前において、被相続人以外のその家屋に居住していた者がいなかったこと
- 相続開始日以後、3年を経過する日の属する12月31日までに譲渡すること
- 譲渡金額が1億円以下であること
相続した家を高く売却するコツ
家を相続した場合に考えられるトラブルや税金についてお話してきましたが、実際に、相続した家を売るにはそれ相応の労力と時間もかかります。
また、相続した家を売る際には、通常の不動産売却の流れに加えて、相続特有の手続きが必要になります。
そのため、信頼できる専門家の手を借りることも重要になってきます。
相続した家を高く売るコツその1:専門家を利用する
相続問題は様々な専門家が取り扱っています。
紛争性の高い遺産分割協議は「弁護士」、相続登記は「司法書士」、相続税は「税理士」、不動産の価値判断は「不動産鑑定士」、不動産売却は不動産会社と、専門家同士がタッグを組んで手続きをすることも珍しくありません。
すべての専門家を利用する必要はありませんが、手続きが難しいものだけを専門家に依頼しても良いでしょう。
また、提携してセット料金で処理してくれる専門家を利用するのも得策です。
相続した家を高く売るコツその2:不動産一括査定サイトを利用する
相続に限らず、不動産を売る時には、複数の不動産会社に査定を依頼するのが基本です。
中には、相続や税金に強い不動産会社もあるので、少しでも多くの不動産会社に査定を依頼して、実際に話を聞いてみましょう。
不動産一括査定サイトでは、無料で複数社に一度に査定依頼ができるので、不動産会社を1つずつ探す手間も省くことができます。
なお、「【2019年最新版】おすすめはコレ!不動産一括査定サイトランキング」でおすすめの不動産一括査定サイトをまとめて解説しているので、よければ参考にしてみてください。
まとめ:相続した家は売却するのがおすすめ
親の住んでいた家など、不動産を相続することは珍しい話ではありません。
相続する時にも相続した後にも何かとトラブルが起きやすいのが、相続不動産のひとつの特徴と言えるでしょう。
不要な争いを避けるためにも、必要な知識を身に付け、事前によく話し合っておくことが重要です。
相続は揉めるだけもったいない!使わない家は売却すべし
相続で揉めるのは、費用や時間、労力もかかるのでナンセンスです。
相続が発生した時は、自分の利益だけを考えるのではなく、相続人同士が納得のいく妥協点を見つけることが、結果的に享受できる利益も大きくなり、無駄なエネルギーも使わない解決方法と言えるでしょう。
特に、実家を相続した場合は、今後住む予定がなく、将来的に活用する予定もないなら、売ってしまって、代金を平等に分配するほうが「後々のトラブル回避」という意味でもおすすめです。